1980年代のある夏。11歳のフキ(鈴木唯)は、両親と3人で郊外の家に暮らしている。父の圭司(リリー・フランキー)は闘病中のため入退院を繰り返し、母の詩子(石田ひかり)は家事と仕事に追われる日々。そんなふたりのもとで、フキは得意の想像力を膨らませながら、自由気ままな日々を過ごしていた。放課後、多忙な母に代わって父の病院に通うフキは、圭司を相手に大好きなテレパシーの練習をしたり、医学書を読み込む手伝いをしたりと、いつしか病院で過ごすのが日課となっていた。病院では、他の患者から思わぬ頼み事をされることもあれば、見舞い客たちが父についてこっそり話す声が聞こえることもあった。フキは様々な場所で、大人たちの世界を垣間見る。同じマンションに住む久里子(河合優実)が、哀しみに暮れた表情でベランダから下を見下ろす姿に気付いたフキは、思わず彼女に声をかける。「なんで哀しいんですか?」催眠術の真似事をしながらそう問いかけるフキを相手に、久里子は誰にも話せずにいたある秘密をゆっくりと打ち明け始める。またある時は、母親が仕事の研修で知り合ったという男性、御前崎(中島歩)と対面する。御前崎との会食で、いつもと違う様子の詩子に何かを察したフキは、子供なりの方法で二人の仲を引き裂こうと画策する。夏休みに入り、家でひとりきりで過ごす時間が増えたフキは、伝言ダイヤルのメッセージを聞く行為に夢中になる。見知らぬ大人たちが残した無数の声を聞くのは、とにかく刺激的だった。だがふとした出来心から自分でもメッセージを残したフキは、自称大学生の薫(坂東龍汰)と知り合い、一度会えないかと誘われる……。そんなある日、フキはリビングで自分用の喪服が入った紙袋を見つけてしまう。一方圭司は、治療の一環として大金をつぎ込み、フキと気功道場に通い始めるが、それを知った詩子はこれまで溜めていた怒りを爆発させてしまう。夫婦間に大きな溝が生まれ、フキの日常は否応なしに揺らいでいく。