人間の條件 第三部 望郷篇
工人逃亡の責任を押し付けられた梶は、憲兵隊の拷問から釈放後、臨時召集された。北満の酷寒の中、連日の厳しい訓練の後、兵舎では古参兵のしごきが続く。抗し難い暴力に、梶は軍隊の錯誤を知らされる。そんなある日、美千子が遥か30キロの道程を訪ねてきた。再会した二人、だが愛を確かめるには束の間の一夜だった。部隊がソ満国境の前線に移動する直前、仲間の初年兵が自殺した。そしてもう一人、左翼と罵られた兵士が国境へ向けて逃亡した。いずれも非情な軍隊の犠牲だった。