ワイルド･パタゴニア ～山嶺のフロンティア～

南米大陸の最南端、その先は南極という過酷な自然環境の中に、多様な生き物が暮らすパタゴニアがある。標高4千メートル級のアンデス山脈に沿って、荒れ狂う火山と冷たく静まり返る氷の世界が広がっている。そこに暮らす生き物は、この地ならではの特別なスキルを会得し、食物連鎖に否応なく従いながら生きている。北部では、渦巻き状に葉をつけたチリマツに、コイミドリインコが群がり、ヤマガモの親子が決死のダイブを試みる。南部の過酷な環境下では、開拓者精神を守るガウチョたちが、野生の馬を手なずけ、食べ物の少ない裸の大地に棲む動物たちは厳しい生存競争にさらされている。凍てつく平原では、死骸をめぐる鳥たちの激しい争いを、そして独り立ちの準備をするピューマの姉妹の、おぼつかない狩りの様子を観察する。

アンデス山脈によって2分されたパタゴニアは、西側に豊富な水を含む肥沃な大地が、東側には風の吹き下ろす砂漠が広がっている。草原のグアナコのハーレムでは、オス同志の激しい戦いが繰り広げられ、その隙を突こうと、チコハイイロギツネが、生まれたばかりの子供を狙っている。風に乗って放浪を続けるチリーフラミンゴは、完璧な条件の湖を探して、1日400キロも旅をする。草原では、さまざまな生き物たちが、一つのコミュニティで共存しながら生き延びているのだ。砂漠地帯では、マゼランペンギンが、暑さや天敵と戦いながら、必死で子育てをしている。寒暖の差の激しいこの地では、子供は濡れると死んでしまうため、乾いた砂漠で生き延びることを選んだのだ。西と東で全く違う環境の中、生き物たちが独自に適応して、力強く生き延びている。

極南のホーン岬から海岸沿いに北上を続けると、ペンギンが決死のダイブを繰り返すロスエスタードス島を皮切りに、高級なタラバガニなどの豊かな漁場が続き、やがて地球上で最も長い食物連鎖のスタート地点がある。氷河から流れ出たミネラル豊富な水が、植物プランクトンを発生させ、それを目当てにカタクチイワシが群れを成す。そこへアシカやイルカが狩りにやってくる。やがて、そのアシカもシャチの標的となり、食物連鎖は続いて行く。灼熱の浜辺では、体重4トンのゾウアザラシが、自分のハーレムを守るため、飲まず食わず、命がけでライバルと戦っている。パタゴニアの沿岸部では「食うか食われるか」のギリギリのせめぎ合いを続けながら、生き物たちがたくましく生きているのだ。