拾われた男

高校で初めて演劇を見て「俳優になりたい」という夢が芽生えた松戸諭（仲野太賀）。「俳優になりたいなら東京へ行け」と合コンで助言された言葉を信じ、兵庫県・西宮の田舎から、東京・表参道に幼馴染みの杉田（大東駿介）を訪ねて上京する。しかしツテも金もない諭は、どうしようか考えていたある日、自動販売機の下に落ちていた航空券を拾い、落とし主で社長を名乗る山村（薬師丸ひろ子）と不思議な出会いを果たす。同居人の杉田が家で彼女のヨシコ（岸井ゆきの）とイチャつくために居場所もないし、ひとまずは金を得るため、熱血漢のフロアリーダー・山下（安藤玉恵）や映画監督志望の塚本（要潤）ら個性的な仲間に囲まれてレンタルビデオショップでアルバイト生活に勤しむ諭。ついに「俳優になるための第一歩」として劇団の試験を受けるが･･･結果は不合格。為す術が無くなった時、“社長”を名乗った山村が脳裏に浮かび、諭は慌てて連絡をとる。山村は、なんと、美しい女性達を中心に育てる芸能事務所の社長だった。その社長の勘一つで拾われた諭は、場違いな空気の中、ファッションモデル達とモデルウォークの練習をしながらまさかの俳優人生をスタートする。

レンタルビデオ店でアルバイトを始めた諭（仲野太賀）は、妙に自分を「すごい」「かっこいい」と褒めてくれる同僚の田畑（松本穂香）に恋をする。田畑はホラー映画好きということを聞きつけ、諭は大して興味のないホラー映画を頻繁に借りて田畑との距離を詰める。自分も早く映画に出て田畑の心を掴みたい、と焦りながら。そして意を決して告白に至るが、彼女からは「保留」とされてしまう。一方、肝心の俳優業においては、平山（北村有起哉）というロンドン仕込みの講師に演技指導を受け始めるが、滑舌の悪さと芝居が薄っぺらいと辛口批評を受ける。その折、事務所の山村社長（薬師丸ひろ子）に進められて、何が俳優として足りないかを知るために、オーディションに挑戦し始める。毎度自分の名前を言う時に緊張して噛んでしまい、「何か一言お願いします」という毎度のオーダーに、どう面白いコメントを返そうとあがいても、全く受からず謎が深まるばかり。そんな折、諭は同居人・塚本（要潤）の友人で俳優の林（水澤紳吾）から「日本兵役が出来る見てくれの俳優を探している」と言われ、戦争映画に出演することに。林は、役作りのために撮影当日二日酔いで参加する程気合の入った役者だった。まさかのデビュー作となった映画の撮影現場で、映画愛が強い鬼軍曹の助監督（山中崇）に罵倒されながら、無我夢中で敗走する兵士の役を演じる諭。初号試写で自分のカットがスクリーンに大写しになるのを感慨深く見る。しかし、出演のチャンスをくれた林は、ワンカットも映っていなかった。諭は役者という仕事の厳しさを学びながらも、この仕事をやりたいと確信する。そして、映画に出られた事に勢い勇んで田畑の「保留」の返事を聞きに会いに行くが、衝撃の答えを浴びる事になる。予期せぬ実生活の経験により、平山のレッスンの場で迫力ある大泣きを披露し、“嘘のない芝居”だと褒められる諭。そこへ、全く予想しなかった「先輩女優のための運転手」という仕事が舞い込んでくる。

論（仲野太賀）は、事務所の社長・山村（薬師丸ひろ子）に命じられ、先輩女優の井川遥（本人）の運転手を務める事に。世間に“癒し系ブーム”を巻き起こしていた先輩を守るため、彼女のコードネームを「ハルコ」とし、ドラマ、CM、雑誌の撮影に分刻みで駆けずり回る生活にお供する。人々が期待する“癒し系”のイメージとは異なり、ハルコはプロレス好きの“白熱系”だった。イメージとのギャップに悩み、疲れているハルコを喜ばせるべく、論はバイト先の同僚・杉浦（田辺桃子）に頼み、ハルコが好きなプロレス選手の入場曲を見つける。実は杉浦さんに恋心を抱かれていた事を読み取れず、論は杉浦さんと食事に出かけた夜、ふられるのを恐れ「友達だから」と言って彼女を傷つけてしまう。一方の俳優業では、映画に囚人役として出演を果たす。たまたま別の役者と間違われるアクシデントによって“美味しいカット映り”となるが、論はただラッキーなだけで芝居力は断然足りていない事を痛感させられる。そんな折、「俳優を辞めてしまおうか」と呟くハルコ。自分とは違い、人に求められる価値のある俳優だとハルコに気づいて欲しい論は、自分のアパートで飲み会を開く山下（安藤玉恵）、吉ミラ（北香那）、田中（前田旺志郎）と合流し、ハルコの大ファンである同居人の塚本（要潤）にハルコ愛を語らせようと試みる。そんな時、論の背後に合流したもう一人の人物は、なんと論に傷つけられたあの杉浦だった。クールビューティーに見えた杉浦は“白熱系”の女子プロレスラーのように見た目が変化。カオスの中、論と杉浦、そしてハルコの、白熱する本音バトルが始まる！

東京に来てから3年が立つのに、俳優と呼べる仕事は全くない諭（仲野太賀）。いつしか、レンタルビデオ屋のバイト先では、後輩の結（伊藤沙莉）に仕事を教える立場になっていた。ノリが良く、諭を尊敬してくれる結と楽しく会話するが、沖縄から来た彼女が元ボクサーの彼氏と東京で同姓していると知り、少しショックを受ける。ある日店の片隅で彼氏が好きな音楽を聴きながら泣いていた結を見つけ、諭は何か彼女に悩みがある事を感じる。ＤＪ機器を買ってみたいという結のために、諭は一緒にレコード店へ。ＤＪ機器を重すぎて運べない結を手伝って部屋に足を踏み入れた時、諭は結が彼氏に暴力を振るわれた気配のする痕跡を見つけ、心配でたまらなくなる。その日は諭にとって27回目の誕生日で、ハルコさん（井川遥）に誕生日を祝って貰う予定だったが、すっぽかして結を夕飯に誘う。自分が“ちゃんと自分らしく生きる”ためのケジメとして、なけなしのお金でＤＪ機器を買った結の思いを聞きながら、彼女への思いが募る諭は、かつて告白しまくってきた男らしからぬ緊張状態で「好き」と言葉にする。戸惑いながらも、諭の告白に嬉涙する結。しかし数日後、2人の前に結の彼氏のヒロシ（奥野瑛太）が現れる。諭は突然恋の修羅場に立たされることに。しかし、結が自分1人でケジメをつけると断固主張。結と諭の様子を心配で見にきた山下（安藤玉恵）、吉ミラ（北香那）と共に諭は結の部屋の中で辛抱しながら結の決闘を待つ事になる。諭にとってオーディションよりも大事な瞬間が訪れる。

ドラマ「名無し男」の端役だがレギュラーを掴んだ諭（仲野太賀）。オタク役として毎週テレビに出るものの、それ以後全く仕事がなく、覇気が無い日々が続く。そんな最中、祖母の晴子（末成映薫）の具合が悪いという知らせを受け、彼女の結（伊藤沙莉）を連れて故郷の兵庫県・西宮に帰省する。待ち受けたのは、結を心待ちにして異常にテンションが高くなった父・平造（風間杜夫）と諭の大嫌いな太巻きをたんまり作った母・きく（石野真子）。祖母の晴子は病院にいながら、アメリカで暮らす兄・武志（草彅剛）に会いたいと繰り返すばかり。その武志がアメリカの大学を中退し、音信不通になったので連絡を取って欲しいと父に押しつけられ、諭はしぶしぶ「連絡をくれ」と兄にメールをする。一方、幼馴染みの杉田（大東駿介）と野本（片山友希）がまさかの結婚を果たし、2人から「ちゃんと俳優になって、結婚しろ」と諭はプレッシャーをかけられる。だが、結のためを思って自分を追い込むものの、勝負のオーディションで大失敗をしてしまう。事務所では諭に役者は無理だという引導を渡すべきかの議論にまで及ぶ。俳優になれず、結にも見捨てられる暗い未来を想像し、家に帰れない諭。そんなしょぼくれた彼を結が見つけ、落ち込む暇があったら絶対に夢を叶えろと渾身の喝を入れる。その頃、諭の俳優道を諦めないマネージャーの日立（鈴木杏）が、彼の人生を変えうる大きな役のオーディションを運び込む。真剣にエチュードを披露し、諭は初めて「松戸諭」の名前を噛まずに言う。そして、結果全く予想しなかった重要な役どころを掴むことに。事務所のメンバーと、結の献身的な支えで、諭は俳優として大きな一歩を踏み出す。

京都での時代劇の撮影が終わったら結（伊藤沙莉）にプロポーズしようと決めていた諭（仲野太賀）。だが、役にのめり込むあまり、初めてのキスシーンの相手を務めた女優（佐藤めぐみ）に恋してしまい、頭を彼女の残像が占拠する。東京に帰り、苦しくて馬鹿正直にその悩みを結に吐露した諭は彼女を大激怒させる。惚れっぽい俳優を生業とする男と結婚する大変さをまざまざ思い知った結だったが、覚悟を決めて婚姻届を提出。結に導かれ、諭は俳優として一本立ちするためにレンタルビデオ店のアルバイトを辞める決意を述べ、山下（安藤玉恵）や吉ミラ（北香那）、中田（前田旺志郎）に背中を押される。事務所でも、社長の山村（薬師丸ひろ子）や日立（鈴木杏）に「縁を大事に」と祝福され、なんとか夫婦として歩み始める諭と結。数年後、結との間に福子という娘が生まれ、海外でも公開される映画に出演するなど、俳優として諭は着実に飛躍を遂げる。海外の仕事を目指す後輩俳優（青木崇高）に刺激され、英語を学び始めた矢先、事務所にアメリカから電話が。夢見たハリウッドのオファーが来たと思いきや、電話の相手はサンディという病院の看護師。兄・武志（草彅剛）が倒れたと知らせれる。突然、諭はアメリカに迎えに来るように要求される･･･。