旅芸人北へ帰る

旅芸人北へ帰る

視聴可能: Prime Video、FOD
ザ・ノンフィクション、エピソード3: オルカは北海道網走に近い雪深い町「佐呂間」で生まれた。現在35歳。生まれつき弱視で、少年時代徹底したいじめにあったせいか人交わりがうまく出来ない。19歳で札幌に出、家具工場で働くが一年足らずで首になった。その後いくつかの仕事に付いたがどうにもうまく行かない。そんなとき繁華街・薄野の路上でダンスを踊った。拍手をもらい、わずかな金ももらった。楽しかった、うれしかった。その快感が忘れられない。「よし路上で芸を披露しその上がりで生きてゆこう」と決心した。必然的に普通の暮らしは出来ない。札幌で路上生活が始まる。それしか道はなかったし、ごく自然な流れだったと本人は言う。以来北海道を転々とし、本州各地を流れ、野良犬大道芸人の道を歩んできた。 5年前、ひょんなことから代々木公園で暮らし始めた。「毎日違ったものを食いたいというのは贅沢です、食えるだけで感謝しなければ」と言いつつ極安のインスタントラーメンだけで食いつなぐ。贅沢は一升580円の合成清酒での晩酌、夜渋谷で大道芸を披露し終わった深夜、静まり返ったテント村で独り酒を飲む。そんなオルカの暮らしに変化が起きたのは今年の4月のことだった。代々木公園のホームレステント村をなくそうと言う東京都の施策が動き始めた。危険は事前に察知し回避する。人交わりはしない。野良犬のような本能を頼りに生きてきたオルカにとってこれは危険信号だった。 満開の桜が散った4月11日、オルカは代々木公園を後に北へ向かった。以前住み慣れた札幌が目的地だった。やっとたどり着いたまだ雪の残る札幌。そこは以前の札幌とすっかり変わっていた。町の中にホームレスの居場所がない。暖かい地下街では座ること、寝そべること、飲食すること、すべてが禁止されていた。街からホームレスを一掃する動きが高まっていた。 オルカの暮らしがまた変わった。朝5時半から10時前までの4時間弱しか地下街では眠れない、それ以外の時間は街をうろつき座ったまま仮眠をとる。飯は冷たいおにぎり、薄いテントでもあれば人目をよけられるのだが、それを張る場所はどこにもない。体が少しづつ弱ってゆく、このまま札幌で生きてゆけるのだろうか、不安が高まってゆく。しかし大道芸の方は順調だった。渋谷と違い札幌の人たちはオルカの芸を一緒に楽しんでくれた。田舎くさいと言われればそれまでだが、その暖かさが心地よかった。 そして夏が終わりに近づいた8月の終わり、オルカは再び旅に出た。目的地は旭川、北見、釧路の道東地方。多分そこにはまだ田舎の匂いが残るから、芸を楽しんでくれる人も多いし、稼ぎも増えるだろう。そんな思惑だった。そしてまた金無し、宿無しの旅が始まった。旅は思いもかけず波乱万丈の旅となった。警察に連行され、10年ぶりに故郷の母と再会し、道東の人々の暖かい気持ちに触れ、大金を稼ぎ、最後は一文無し、何でもありの不思議な旅だった。家も無い、金も無い、その日暮しの野良犬・大道芸人オルカの漂流人生は今も続いている。