2007年、正体不明のグラフィティアーティスト・バンクシーがパレスチナ・ヨルダン川西岸地区にあるベツレヘムの巨大な分離壁に6つの壁画を描いた。バンクシーによって集められた14人のアーティストと共にキリスト生誕の地に観光客を誘致する前衛的なプロジェクトだったが、描かれた1枚の絵「ロバと兵士」が地元住民の怒りを買ってしまう。彼らはウォータージェットカッターで壁画を切りだし、オークションサイト「eBay」に出品。巨大なコンクリートの壁画はパレスチナから海を渡り、美術収集家たちが待つ高級オークションハウスへと送られることになる。5年後、監督のマルコ・プロゼルピオはベツレヘムへ向かい、取材を始める。インタビュー対象者は現地のアーティストや活動家、そして「ロバと兵士」を売りとばす一旦を担ったタクシー運転手ワリド・“ザ・ビースト”だ。そこで得た情報を元にプロゼルピオは壁画の足跡を辿り、世界中を旅することとなる。作品が最初に行きついた地デンマーク、現在の所在地となるロンドン、そして2015年にオークションが行われたロサンゼルス。旅が進むに連れ炙り出されてくるのは「ロバと兵士」に関わらずストリートアートのあるべき姿、芸術と価値、芸術と著作問題、そしてバンクシーがもたらす光と闇だった。 バンクシーのアートがその文脈なしでは意味を持たなくなるのと同じように、特定のアート作品がベツレヘムから西洋のオークション会場へと壁ごと切り抜いて移すに至った背景を理解しなければ、価値を見出すことはできず売れ残ってしまいそのアートを盗んだこと自体意味を持たなくなる。本作は美術品の収集家やディーラー、芸術修復家、キュレーター、著作権専門の弁護士、ストリートアーティスト、ベツレヘムの人々のインタビューを通して語られていく―。マルコ・プロゼルピオは本作で観客に問いかける。「ストリートアートが刹那的なものであるなら、アーティストの意思通り作品が消えることを尊重すべきか?それとも後世のためにも保存していくべきなのだろうか?」
