「けさ、電車で隣り合わせた厚化粧のおばさんを思い出す。ああ、汚い汚い。女は嫌だ…」70年前(第二次大戦勃発時)とは思えない“女子高生のブログ”のような作品。漠然とした「ムカつき」や大人への生理的な嫌悪感。「“みんなを愛したい”と涙が出そうなくらい思いました。」無垢で清浄なリリシズムがリアルで美しい。現代のコギャルの心に突き刺さる。女子高校生が思春期に持つ、少女と大人の心のグレーゾーンを美しい風景と共に表現。
「おわかれ致します。」いきなり結論から始まる離縁状で“女性文体”の傑作。亭主たちの胸に突き刺さる。売れない頃の一途な夫が好きだった。 でも、売れてお金のことばかりを気にするようになった夫には、もはや魅力を感じないばかりか、ある種の憎しみさえ覚える・・・そんな複雑な女心を表現。
「拝啓。一つだけ教えてください。困っているのです。」という印象的な手紙の冒頭文で始まる、ずいぶんと風変わりな痛切な告白。今、まさに人生が良くなりそうな大切な瞬間に、自分の耳元で鳴る「トカトントン」というふざけた音。あと少しで手に入れられるはずの幸福が遠のいていく。“戦後体験に基づく悲痛な独白”とも受け取れるが、未来への希望を見失う現代人の心にも深く突き刺さる。 「トカトントン」は一体どんな音がするのか?
太宰治の作品の中では、「人間失格」に次ぐ国民的小説。。 “メロスは激怒した。必ず邪智暴虐の王を除かなければならぬと決意した。 メロスには政治がわからぬ。” という有名な冒頭文。人間不信の王を見返すために、自分を信じて疑わない友人の命を救うために、メロスは走る!太宰の中でも珍しく後味の良い爽快感溢れる名作。
“私は、犬については自信がある。いつの日か、かならず喰いつかれるであろうという自信である。” 冒頭から犬を恐怖の対象とし、蔑視・罵倒し倒す作家。恐れるあまりの犬への卑屈な態度で逆に好かれてしまいうろたえる。 そして彼の心にいつしか“野良犬”への奇妙な愛情が生まれる。太宰の短編中最もユーモラスでペーソス溢れる名作。
“惚れたが悪いか”という言葉が鮮烈な、戦後すぐに発表した『伽草子』中の一篇。兎は16歳の処女、狸はうだつの上がらない中年の男と読み替えたお伽噺『カチカチ山』のパロディだ。“女性にはすべて、この無慈悲な兎が一匹済んでいるし、男性には、あの善良な狸がいつも溺れかかってあがいている。” 若く美しい兎(女性)の官能と残酷さ、それにメロメロになる狸(男性)の下品で粗野だが一途で純情な馬鹿らしさが心に響く。