ゲーテの『ファウスト』のクレールなりの翻案なのだが、いつもの軽みを失わず、深い人生への考察をものにしている。これ二人の名優シモンとフィリップの至高の演技の賜物。特に冒頭では髪を尖らせたメフィストフェレスを、そして青年ファウストを演じるフィリップはミューズに乗り移られたかのように素晴らしい。彼は朗読のレコードを幾つも残しているが、その美貌に増して声の響きが魅力的で、メフィストに回春させられてからしばし老人の口調で喋り、次第に体にみなぎる若さを声にも取り戻していくあたり、溜息が出るほど見事だ。

監督 ルネ・クレール