昭和50年春―、飛騨高山の造り酒屋「いさみ酒造」の一人娘として育った桜子は、「いさみ酒造」の実子ではなく、幼い時に当主・郁造に養女として迎えられた。昭和34年、桜をこよなく愛する郁造は、とある古寺に植えられた千年桜を見に行った際、この寺で暮らす3歳の桜子と出会う。郁造は寺の住職に相談し、身寄りのない彼女を引き取ったのだ。それから16年、溢れんばかりの愛情を注がれて美しく成長した桜子は、古寺から移植された千年桜の下で、比呂人と運命的な出会いを果たす。それは桜子の身体がスパークするほどの衝撃的な恋の始まりだった・・・
桜子は庭の千年桜を見ていた比呂人に枝を一つ折って渡す。比呂人はこの桜が元々植えてあったった古寺に縁があり、桜を見るためにはるばるやって来たという。桜子は、この比呂人と話していると、なぜか心に温かいものがこみあげてくるのを感じていた。勝はそんな桜子の様子が気が気でならない。勝も桜子に実の妹以上の想いを寄せているのだった。一方、郁造は連日仕事で忙しく、家族一緒に食事を取るのもままならないほど。実は「いさみ酒造」の経営状態は芳しくなく、勝やまりえもそのことを思うと憂うつになるのだった。
桜子が小学3年生の時、高山で芸者をしている桜子の実母・秀ふじが突然郁造の前に現れる。郁造は、桜子を奪われるのではないかと警戒するが、お礼を言う秀ふじに安堵する。それ以来、静かに桜子を見守り続けていた秀ふじを郁造が愛人にしたのは最近のこと。美しく成長した桜子を、一人の女性として見てしまう郁造は、その気持ちから逃げるように、秀ふじと関係を持ってしまったのだ。一方、桜子は美容師の雄一にまとわりつかれ困惑していた。その様子を見た勝が、雄一を殴り飛ばし、事態は「いさみ酒造」を巻き込んだ大騒動となっていく―。
郁造は桜子に勝との結婚を勧める。借金のカタで雄一に嫁がせるくらいなら、息子である勝と結婚させたほうが救われる、と郁造は思ったのだ。自分が郁造の実の娘でないという事実を受け入れたくない桜子は、勝は兄として好きなのだと涙ながらに抗議。勝との結婚話は流れてしまう。季節は過ぎて秋。桜子は、「いさみ酒造」にやって来た杜氏や蔵人の中に以前裏庭にある桜の木の下で出会った比呂人を見つける。そして、その瞬間、二人の視線は熱い炎を燃やしながら絡み合うのだった―。
裏庭にある桜の木の下で、お互いの思いをぶつけあった桜子と比呂人は、勝が見詰めているとも知らずに、熱い抱擁の末、唇を重ねる。皆の前では他人行儀な二人だが、時折見せる二人の幸せな様子に、勝は激しく嫉妬する。桜子は良太を通じ、比呂人に夜更け、近所の神社に来てほしい、との恋文を送る。良太から恋文を取り上げた勝は、桜子たちの密会を監視。しかし、二人が確かな愛を育んでいるのを目の当たりにし、ショックから部屋に引きこもってしまう。
勝が比呂人を殴ったことで、桜子と比呂人が愛し合っていることを郁造が知ってしまう。男としての嫉妬心を押さえながら、郁造は桜子に、自分の立場をわきまえるよう諭す。比呂人との愛を邪魔されたくない桜子は、ただの噂だと否定するが・・・。一方比呂人は、幼い頃に自分の面倒を見てくれた女性を訪ねていた。比呂人が母と慕うその人は、何と桜子の実母、秀ふじだった。20年ぶりの再会に、秀ふじの胸は熱くなる。そんな秀ふじに郁造が、桜子と比呂人があまりに純粋に愛し合っていることへの妬みを打ち明けていると、唯幸が現れる。