エピソード1
第一部 出発
坂本竜馬は天保6年(1835年)、土佐高知城下で生まれた。家は代々の豪商であったが、竜馬の曽祖父の時代、下級武士である郷士の株を買って分家している。土佐は、封建の世にあって、他藩と較べてもなお身分差に厳しい藩だった。家老の娘、お田鶴様に恋心をいだく竜馬だったが、顔を見ることもままならない。竜馬に剣を教えてくれた男勝りの姉、乙女も身分のことには口うるさい。「くそ、何が身分じゃ!こんな腐れ藩はおん出てやるわい!わしは江戸へ出て、身分なんぞハネ飛ばすでかい男になってやるわい!」19歳の春である。竜馬は剣術修行のため江戸に向かった。途中、大阪で辻斬りにあうが、その相手は同じ土佐で、竜馬より身分の低い足軽の子、岡田以蔵だった。大事な金を盗まれたが、足軽では藩から借金もできないと泣く以蔵に竜馬は親が用意してくれた五十両をすべてあげてしまう。それを見ていた男がいる。泥棒、寝待ノ藤兵衛。竜馬の人間にほれ込んだ藤兵衛は、勝手に子分になることを宣言し、旅の道づれとなる。藤兵衛の紹介で投宿した伏見寺田屋の女将、お登勢も竜馬の人柄に魅せられ、以後寺田屋は竜馬の定宿となる。江戸に着いた竜馬は桶町の千葉貞吉道場の門をたたくが、時代は竜馬に剣の修行だけをさせてはくれなかった。黒船がやってきたのだ。恐怖で騒然とする人々のなかで、竜馬の反応はちがっていた。「でっかい!まるで鉄のクジラじゃ!あんな船に乗ってみたい!」黒船に怯える幕府の弱腰に怒った若者たちの間には、尊王攘夷思想が膨らみつつあった。土佐藩の江戸藩邸でも、竜馬の親戚にあたる武市半平太が若者たちをまとめ、ひとつの勢力となっていた。竜馬も単純に尊王攘夷に染まっていくかに思えた。最初の留学期間が終わり、土佐に帰った竜馬に父の八平が思いがけぬことを告げる。「世は変わる。これからの世を治めるのは“武”ではのうて“商”じゃ。」竜馬の中になにかが芽生えていく。ふたたび江戸に出た竜馬は、水野播磨介という公家侍と知り合う。倒幕をめざす公卿に届ける密書を運んでいた播磨介は、追っ手が迫ると密書を竜馬に託し、自ら追っ手に切り込んで行き、惨殺されてしまう。「大儀」のために命を捧げた播磨介の勇気に感動した竜馬だったが、次の瞬間、違うものがはじけた。「ちがう…わしはちがうと思うぞ…命より大事なものなんか、この世にないわい!」
1時間34分 · 2023年1月2日
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