家から半径3キロ以内で生きてきた男、芝二郎。便利で安全で不安のない暮らし。…それが、突然終わりを告げた。きっかけは、父の死。引き金は、母の家出。幸せの使者マメシバの「一郎」が、二郎の背中をそっと押した。
芝家では、一昨日亡くなった父・良男 (笹野高史) の葬儀が行われていた。鞠子 (藤田弓子) が、振る舞いの鮨桶を台所で洗っていると背後に気配が。振り向くと、一人息子の二郎 (佐藤二朗) が写メを撮影して去っていった。二郎はその足で祭壇へ向かい、パシャパシャと写メを執拗に撮りまくった。「葬式にも出ないで何やってるのよ」35歳で無職のパラサイト中年・二郎は、親戚中の鼻つまみ者だった。適当に毒を吐いて去っていく二郎。親戚は、二郎がこのままだと芝家が心配だと鞠子を責めた。数日後、相変わらず引きこもっている二郎の部屋に財部 (高橋洋) がやって来た。母から預かったと渡された封筒の中には「芝一郎」名義の通帳が入っていた。と、庭から犬の鳴き声が。そこに居たのは、生まれたばかりのマメシバの子犬だった…
マメシバの「一郎」を置いたまま、どこかへ行ってしまった母、鞠子 (藤田弓子)。ぶら下り生活を続けてきた二郎 (佐藤二朗) は、一郎を飼う気などサラサラ無く、隣に住む親戚の富子 (角替和枝) に押し付けようと画策。ところが、鞠子は先手を打っていた。事前に「二郎ちゃんが何か頼んできても断ってください」と言われていた富子と夫の重男 (志賀廣太郎) は、「これがお前への試練だ」と取り合ってくれない。「みんな勝手だよ」仕方なく一郎を引き連れながら嘆く二郎。しかし、その様を面白がっている財部 (高橋洋) から、駅前のペットショップで親切な店員が居ると聞き、早速赴くことに。と、ふいに一郎の首に巻かれたスカーフの中に「赤いお守り」を発見。中からは、「1.バカ夫妻」と書かれた謎のメモと、楽譜の一節らしき紙片が出てきた…
母、鞠子 (藤田弓子) の仕掛けた罠にまんまとハマり、マメシバ一郎と共に母親探しを始めた二郎 (佐藤二朗)。鞠子からの次なる指令は「2.富士見公園の五時の少女」。こんなくだらないゲームを早く終わらせて元の引きこもり生活に戻りたい一心の二郎は、うまれてはじめて県道の先にある富士見公園に赴く。そこは昼間から犬連れの主婦や若い女性が憩いの場として利用しており、二郎は何とか少女の情報を取ろうと、一郎をダシにコミュニケーションを図る。だが見ず知らずの人に話しかけた事などない二郎。まったく相手にされないどころか、つい失礼な口をきいてしまい、不審者と思われてしまう。やがて、夕方五時。それらしき少女、さとみ (伊藤かな恵) が公園に現れた…
「富士見公園五時の少女」を付け回し、不審者と思われ通報された二郎 (佐藤二朗) は、警察署の取調室にいた。生活安全課の為末 (山本剛史) から親戚全員から身元引き受けを拒否された事を告げられる。留置所に入れられた二郎。同室の男、笹波 (西田幸治) から質問攻めに合う。笹波は異常なまでの「犬マニア」で、柴犬に関するトリビアをやたら披露する。ヘンな奴同志、妙にウマが合う二人。こうしてみると、この狭い留置所が何だか居心地良く感じてしまう二郎。パソコンさえあれば、自分の部屋に引きこもっているのと同じだ。そんな二郎に、笹波は「お前には待っている奴が居るだろう」とクギをさす。父さんは死んだし、母さんは家出したし。待ってる奴なんていない。そう言う二郎に、「犬がお前を待っている」と笹波は告げた。
富士見公園の少女から母、鞠子 (藤田弓子) の情報を聞き出す為に、二郎 (佐藤二朗) は、策を練っていた。鞠子が指令メモに同封していた楽譜の歌が何かヒントなのではないかと思いついた二郎。郵便局員だが、歌手に憧れている親戚の財部 (高橋洋) にギターで歌わせて少女に聞かせてみる作戦に出る。少女が来る前の予行演習とばかりに財部に公園で弾き語りの度胸をつけさせていると、流行のアニメ「じんじゃーまん」の歌を歌って、遊んでいた子供たちの心を掴み、俄然調子に乗る財部。やがて五時になり、犬を連れたさとみ (伊藤かな恵) が現れた。鞠子が残した楽譜の曲を演奏する財部。さとみがピクリと反応した。その時、物陰で様子を伺っていた二郎の手から、一郎が逃げ出し、さとみに向かって駆けて行った。