この日の柳沢家の一日は、ちょっと不思議な口論から始まった。 《柳沢良則》と三女《世津子》の口論の中身は横断歩道を渡るか渡らないか、何が常識で何が常識じゃないのか。互いに自分の説を一歩も譲らない二人。そんな父娘を傍らで見守る妻《正子》。とうとう世津子は怒って席を立ってしまう。それでも柳沢教授は今日も道路の右側を歩き、横断歩道を渡って大学へと向かうのであった。柳沢教授は世の中のどんな事象に対しても常に探求心と学習する意欲を持ち続けている。あらゆる種類の書物が彼の友だ。世津子との口論をきっかけに彼が選んだのは『交通の教則』。道路交通の規則について徹底的に学ぼうという訳だ。 『交通の教則』を手に街を行く柳沢教授。教則には『交通の妨げになるものを道路に置いてはいけません。』と書かれている。しかし、路上に座り込む女子高生、乱雑に停められた自転車、店の前に置かれた広告看板・・・。町中に規則違反が溢れている。それを見過ごせる柳沢教授ではない。 彼は女子高生に注意し、自ら看板をどけようとする。ついには営業妨害だと警察まで呼ばれ、柳沢教授の周りには人だかりが出来ていく。 そんな大騒ぎの中でも柳沢教授は少しも慌てることなく、集まった人々に議論を持ち掛ける。何が正しいのか意見を交換しようというのだ。変なおやじの行動に最初は戸惑っていた人々だったが、少しずつ意見が出始めると議論は盛り上がり、やがて町の人々の間に不思議な連帯感さえ生まれていくのであった。 果たしてこの出来事は柳沢教授の家族にどんな影響をもたらしたのであろうか・・・。